2016/11/03(木・祝) 量子科学技術研究開発機構・那珂核融合研究所・核融合施設見学会 (一般公開)

量子科学技術研究開発機構 (元・日本原子力研究開発機構) 那珂核融合研究所で 2016/11/03(木・祝) に開催された「核融合施設見学会」 (一般公開行事) を見に行ってきました。

予定より 2 時間ぐらい寝過ごしてしまい、到着したのは 13:00 を過ぎたころ… 施設入口には一応一般公開行事らしいゲートが設置されていました。

核融合施設見学会入口ゲート
核融合施設見学会入口ゲート

建物に到着すると、見学ツアーの参加者募集をしていました。他の研究施設の一般公開と違って、基本的にツアーに参加して見て回る形式になるので、見学ツアーに参加しないと、子供向けのイベント以外にはほとんど見るところがありません。当然参加します。

ツアーの最初でいきなりメインイベントと言える JT-60 実験棟の見学です。

JT-60 実験棟
JT-60 実験棟

建物の名前は JT-60 実験棟ですが、JT-60 は既に解体されて別の場所に運び出されていて、現在は ITER の副施設で欧州との共同研究施設という位置づけとなった JT-60SA を内部で建設中です。

見学用の部屋から、かなり出来上がった JT-60SA の真空容器を見下ろすようにして見学できます。

JT-60SA 真空容器 (向かって右手)
JT-60SA 真空容器 (向かって右手)

見学用の窓から見える範囲はごく限定的なので、こういう写真しか撮れません。TOSHIBA という旗がぶら下がっている構造物の奥に見える球体状のものが真空容器です。実際にはドーナツ状の形状をしています。このあと超伝導トロイダル磁場コイルをはめ込んでいくために、ドーナツ状の形状のうち、わざと全体の 20 度ぐらいを未完成のままにしてあり、そこから超伝導トロイダル磁場コイルを入れては、円周上を移動させて固定させていく、という作業がこれから行われます。現時点では超伝導トロイダル磁場コイルは 1 つもはまっていません。真空容器の 20 度ほどの開口部には、形状を保つための治具が入ったままとなっています。この治具はオレンジ色で目立つので写真でも場所がわかりやすいと思います。

左手に見える青い装置は、中性粒子ビームの入射装置です。燃料となる水素などの中性粒子を一旦イオン化して電磁的に加速し、最後に電子を加えて再度中性化して、真空容器内に打ち込む装置です。燃料を注入するための装置という意味と同時に、加熱装置としての意味があります。

次に場所をうつして、超伝導トロイダル磁場コイルが仮置きされている場所へ連れて行ってくれました。

超伝導トロイダル磁場コイル
超伝導トロイダル磁場コイル

超伝導トロイダル磁場コイルは国際共同プロジェクトである JT-60SA では、フランスとイタリアが製造を担当しています。全部で 18 個必要となりますが、フランス、イタリアがそれぞれ予備を含めて 10 個ずつ、合計 20 個製造されます。現在フランス製の 2 つが到着していて、写真の今回一般公開で展示されていた超伝導トロイダル磁場コイルは、その 2 番目に届いたコイルで Coil11 という名前がついています。

続いて液体ヘリウムを使った冷却システムへ案内されました。この冷却システムは、超伝導コイルが超伝導状態になる温度まで冷やすための液体ヘリウムを -269℃ まで冷やすための装置です。装置としてはエアコンと同じ熱交換機式で、液体ヘリウムをいったん圧縮して温度を高くして、そこから熱を奪った後、圧力を下げてやることで冷却します。そのために中心となる施設は圧縮ポンプです。メーカーはドイツの会社だそうですが、この機械自体はフランス製だそうです。

液体ヘリウム冷却装置の圧縮ポンプ
液体ヘリウム冷却装置の圧縮ポンプ

装置の色使いとかがヨーロッパっぽいです。18 気圧まで圧縮するそうです。

続いて電源施設を見学しました。電源は直流電源が必要になり、さらに大電流が必要、かつ、急激な電流変化が必要な場合もある、ということで、かなり特殊な装置が色々つながっているようです。一番気になったのは「電線」です。電源から真空容器へ電気を送る電線は、普通のケーブルではなく、ものすごくしっかりした金属角材でした。あれだけの断面積が必要ということなのでしょう。

電源室の天井に張り巡らされた「電線」
電源室の天井に張り巡らされた「電線」

写真を見ても、支持構造物ばかりで電線がないやん、と思うのではないかと思いますが、写真に写っている銀色の、平行して並べて設置された金属の板のようなものが電線です。

最後に、JT-60 の保管場所を案内されました。

JT-60 に使われていた常伝導トロイダル磁場コイル
JT-60 に使われていた常伝導トロイダル磁場コイル

JT-60 のトロイダル磁場コイルは、JT-60SA の超伝導とは違い、常伝導コイルです。なので磁力を発生させるために電気を通すとコイル自体がかなり発熱します。写真でコイルに青い装置がついていますが、これはコイルの水冷装置です。

見学用のスペースの目の前には、上記のトロイダルコイルが見えています。その左奥の方に、JT-60 の真空容器が保管されています。ちょっと見難い位置にあります。

JT-60 の真空容器
JT-60 の真空容器

これらは JT-60 の実験で出た中性子によって若干放射化していて、それが崩壊して放射化が収まるまで保管されることになるそうです。30 年とか 40 年ぐらいのスパンだそうです。既に JT-60 での実験を終えてから 10 年近くになるので、あと 30 年ほどで廃棄できるようになるようです。

高周波加熱装置の見学は、午前中のツアーには組み込まれていたようですが、午後のツアーは人数をさばくためにツアーから外れていました。高周波加熱装置の見学を担当している職員の方が、暇だったのか独自にその装置だけの見学ツアーを集客をしていたので、そちらにも参加して見せてもらうことができました。

高周波源となるジャイロトロン
高周波源となるジャイロトロン

東芝製のジャイロトロンは、現時点では世界最高クラスの性能を持っているそうです。2 種類の周波数帯に 1 つのジャイロトロンで対応しているのも珍しいそうです。ちなみに製造している会社は現在も「東芝なんとか」、という名前のままだそうですが、東芝の粉飾会計問題で会社まるごとキヤノンに売られてしまって、現在はキヤノンのグループ会社となっているそうです。東芝は本体で原子力をやっているので、こういう関連会社を維持する意思があったと思いますが、キヤノンがこの事業を続けてくれるのかちょっと不安です。

そしてこちらが高周波加熱装置の本体です。

JT-60SA 高周波加熱装置
JT-60SA 高周波加熱装置

写真には 3 器の高周波加熱装置が写っています。手前から 2 つ目まではジャイロトロンが刺さっていますが、3 つめの装置には刺さっていません。この 3 つめの装置に本来は刺さっているジャイロトロンが、単体で展示されていたジャイロトロンということです。高周波加熱装置は最終的には 9 台になるそうで、この写真の奥の方にも、手前の方にも、建物内にはまだ空きスペースがあり、設置工事の準備が行われていました。

この装置で作られた高周波は、導波管を使って真空容器に導かれます。真空容器内に高周波を放出するためのアンテナは、JT-60SA で新たに試される回転する平面鏡と固定局面鏡により、真空容器内の狙った場所に高周波を送り込めるような独創的な形状をしています。高周波なので普通の、例えばダイポールとかのようなアンテナという概念とは全く異なる姿をしていますが、普通に鏡で反射とかできると聞くと、電波ではなく、光の領域に近づいているんだなぁと思います。反射時のロスにより鏡が熱を帯びるため冷却が必要ですが、可動式平面鏡はその名の通り可動部があるため、動作を繰り返しても信頼性のある冷却システムが課題で、今回は冷却系にジャバラ状の部分がまったくない独自の方式が試されます。また、可動部の潤滑は、オイルなどをまったく使わない乾式が用いられます。アンテナ自体は真空容器内にあるため、冷却、潤滑などに使う水はオイルが少しでも漏れると大問題になるため、このあたりの設計がとても難しいそうです。

最後に帰り間際に撮った那珂核融合研究所内の並木です。紅葉していてとても綺麗でした。

紅葉して美しい那珂核融合研究所内の並木道
紅葉して美しい那珂核融合研究所内の並木道

こんな感じで見学してきました。JT-60SA ではまだまだ発電には至りませんが、それでもこれだけ最新の技術を投入していく必要があります。ITER は技術レベル的には同じ時代ということもあり、似たようなもののようですが、規模が違うので、実証試験としては意味があるものができるはずです。生きてい るうちには核融合発電が実用されるところを見てみたいと思っているのですが、間に合うのかどうか微妙な感じ、というのが今回の見学で感じた感想でした。

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