船底塗装を途中で抜け出して何をしに行ったのかと言うと、日本科学未来館へ行ってきました。
日本科学未来館
朝から何も食べていなかったので、日本科学未来館のあるお台場へ移動して、とりあえずご飯です。日本科学未来館に併設されているロッテリアにしました。このロッテリアは日本科学未来館の前の庭の部分を眺めるテラス席があって、なかなかいい感じの店です。
日本科学未来館併設のロッテリア
噂のタワーチーズバーガーも売っています。
タワーチーズバーガー
10 段は無理です。3 段とか 4 段も注文できるので、ちょっと心が動きましたが、今回は絶妙バーガーにしました。
絶妙バーガー、ポテト、アイスカフェオレのセット
テラス席で食べているとスズメが時々席の近くまで寄ってきます。バンズを少しちぎって足下に置くと、スズメのうちの 1 羽がちょこちょこと寄ってきて食べていました。かわいいです。
さて、わざわざ船底塗装を途中で抜けてきたのは食事をするためではありません。目的は、サイエンティスト・トークというシリーズもののイベントで、1 人乗りヘリコプター GEN H-4 の開発者である柳澤源内さんがしゃべるイベントがあり、それを聞きに行くことです。
会場は 50 席用意されているということでしたが、広い空間の端っこの方に、こじんまりと設営されていました。私が到着したのはトークイベント開始直後でしたが、座席は満席でした。しかし座席の後ろには広いスペースがあるため、立ち見で聴くのは問題ないと言われ、後ろに立って聴き始めました。最初は子供連れが何組か聞いていましたが、子供にはつまらないと感じられる内容であるのか席を立ってしまう人がいて、幸い途中からは座って聴くことができました。
トークイベントの内容ですが、最初のうちはエンジニアとしての柳澤源内さんがヘリコプターなどを手がける前の話です。
柳澤源内さんの昔話
エンジニアの人というのは、こういった場でしゃべるのがうまくない人が多いのですが、司会の方のリードがうまいこともあって、柳澤源内さんは意外に流暢にスライドの内容にあわせて話を進めていました。
意外に流暢に話す柳澤源内さん
最初の部分の内容は、ご自身の経歴や、ヘリコプター開発以前に輸入した BMW オートバイのデッドコピーを作っていたとか、色々なエピソードを題材に、昔どういったことをやっていたかといった話をされていました。「日本も昔は人の真似からスタートしたのです」という言葉は、最近の若いエンジニアが、中国や韓国が日本や欧米の真似をすることを一方的に批判している事に対しての苦言であったように聞こえました。あれだけ独創的な人が言うと重みがあります。
そして、話はヘリコプター開発の話へと突入していきます。最初は GEN 125 というエンジンです。2 ストロークの小型エンジンです。
GEN 125 エンジン
このエンジンを使って農業などに使うための無人のヘリコプターを作ってみようと思ってスタートした DBR-1 という機種がヘリコプター開発の端緒だそうです。
ヘリコプターの元 DBR-1
しかしその時点ではマイクロコンピュータなどの性能が不足していて、ヘリコプターを安定した状態に制御できるまでには至らなかったそうです。上記の写真の DBR-1 は、写真ではわかりにくいかも知れませんが、クレーンで吊った状態で試験をしていて、飛んでいません。結局フライトには成功しませんでした。しかし、実験中に不安定な機体を人が支えるとすごく安定することから、人が制御した方が実現性が高いのではないかという発想で、有人機の開発に切り替わっていったのだそうです。
有人機を作るということになって、柳澤源内さんは以下のスケッチを描きました。スケッチを見ると、最初のスケッチの時点で GEN H-4 の主なスタイルは完成していたことがわかります。
GEN H-4 の元になったスケッチ
次の試作が BDH-1 です。
ヘリコプターの元 BDH-1
上記の写真では飛んでいるように写っています。なぜこの写真では本当に飛んでいるように見えるのかの説明を聞き漏らしましたが、この BDH-1 も結局飛ばなかったそうです。
しかし BDH-3 という機種に至って、初飛行に成功します。
初飛行 BDH-3
この初飛行はちゃんと動画が残っていて見せてもらえました。最初から安定して飛んでいることに驚きました。
BDH-3 によるテスト
開発においては、風洞のような高価な設備はないので、色々工夫をされたという説明もありました。ローターの性能確認は、乗用車で引っ張れるトレーラーにローターの回転部を取り付け、ローターを回転させながら、乗用車で時速 50km で引っ張って走るとどうなるか、時速 60km ならどうか、といった数値を集めて、風洞実験の代用としたそうです。プロペラ自体の耐久性や性能の確認でも、写真のようなテストベンチを使って確認したのだそうです。この写真でクレーンで持ち上げているのは、低い場所では地面効果が出てしまうため、ローターの正しい性能評価ができないためなのだそうです。
耐久テストベンチ
GEN H-4 のトランスミッションに関する説明もありました。2 重反転プロペラを実現するためのキーとなる部分の 1 つです。2 重反転プロペラでメインローターを作ると、左右のヨーモーメントは釣り合ってしまい、飛んでいる状態でヘディングを変更したり、外乱で向きが変わってしまった時に元に戻したりといったことができません。そこでディファレンシャルギヤによって、上のブレードと下のブレードの回転数を、多くてもほんの 2、3% ぐらい変化させることでブレードを回転させていることによる反動ヨートルクに差を持たせ、それによりヘディングを変えるのだそうです。
図面をきちんと引くと、その通りに作ってくれる日本の工場があってこそ実現したものと、日本の環境の素晴らしさをほめていました。
GEN H-4 ミッション
飛行できるようになった GEN H-4 は色々なところで話題を呼び、アメリカのオシコシ Oshkosh で開かれるイベントにも行ってフライトしました。
1999 年アメリカオシコシ Oshkosh でのフライトの様子
アメリカには、エクスペリメンタル Experimental というカテゴリーが存在するし、マイクロライトの歴史も長いのですが、GEN H-4 はどのカテゴリーにも属さず、テストフライトの手続きでは若干混乱があったそうです。しかし、基本的には「自分のリスクで好きなように飛んでみなさい」と言ってもらえるので、飛ぶことができたと嬉しそうに話をしていました。
続いて 2008 年のイタリアです。ヘリコプターの世界では 2 重反転プロペラはマイナーなのですが、歴史的にイタリアは 2 重反転プロペラにこだわりのあるエンジニアが多いそうです。なので、この GEN H-4 は好意を持って受け入れられたそうです。
2008 年イタリア
日本に戻って実用化の話です。有人でのフライトよりも、災害時の荷物運搬や、状況観察のためのツールとしての利用を想定したラジコンを考えているそうです。上述のようにラジコンは一度失敗しているのですが、制御に使えるマイクロプロセッサーなどのハードウェアの進化がすさまじかったため、現在は人が制御して飛ばすよりもずっと安定した状態で飛ばせるようになっています。
100kg 程度の荷物は運べるということで、災害現場で、この尾根さえ越えることができればいいが、道路崩落で車は役に立たないような状況で活用できると考えているそうです。人を運べないにしても、孤立した人に例えばトランシーバーを届けたり、飲食物を安全に持っていったりすることは可能です。しかし長距離の飛行には電波法の問題なども出てくるため、色々検討して、役所などと調整しなければならないことも課題なのだそうです。
ラジコンバージョン
トークイベント終了後、エンジンやブレードを近くで見ることができました。
ブレード
ブレードは 1 枚 1kg ぐらいだそうです。トークイベントの途中で、司会の人が見た目が大きい割りに軽い、と盛んに言っていたのですが、持ってみると、私には見た目通りの重さに感じられました。重くもないですが、驚くほども軽くはありません。
発泡素材とカーボンファイバーの複合素材だそうです。表面に白い塗装がしてあるのは、暑さ対策なのだそうです。カーボンの素材の色である黒い色のままだと、気温が高く日射のある環境では変形してしまって性能劣化が起きるのだそうです。
こちらはエンジンです。
エンジン
2 気筒の 2 ストロークガソリンエンジンです。これが 4 機乗っていて、単一のミッションを経由して 2 つの反転するプロペラ群を回しています。
イベント後は、柳澤源内さんと直接お話することもできたので色々聞いて見ました。
オートローテーションですが、ブレードにピッチ制御の機構がないため着陸時にフレアできないのだそうです。そのため、実はオートローテーション用のモーターがついていて、フレアのためにブレードに回転力を足すことができるらしいです。
ブレードの改善については、性能改善というよりも、騒音対策という意味でウイングチップを付ける必要があるかも知れないということでした。
2 ストロークで行くには環境問題で難しい面があると思いますが、どうするのかと聞いて見ると、インジェクションを考えているそうです。2 ストロークの構造の単純さは 4 ストロークでは替え難いメリットで他の方法を探っているのだそうです。インジェクションだと環境にいいという理由は時間がなくて聞けませんでしたが、ダイレクト・インジェクションなら 2 ストロークでもポートが閉じた状態になってから燃料を入れることができて環境対策になるというような意味ではないかと思います。
最後に 2 ショットで写真を撮ってもらいました。
柳澤源内さんと記念撮影する奥村
このトークイベントは、ドラえもんの科学みらい展というイベントの一環です。そのため日本科学未来館に到着してすぐにドラえもんの科学みらい展の入場券を買っていたのですが、トークイベントの会場へ行くと、なんとトークイベント自体はドラえもんの科学みらい展の入口横の誰でも入れる場所で行われていたので、入場券を買う必要はなかったのでした…
せっかく入場券を買ったのでドラえもんの科学みらい展にも入りました。
ドラえもんの科学みらい展入口
会場に入って少し進むと、ドラえもんがにこやかに出迎えてくれます。
ドラえもん
このトークイベントがあることからもわかるように、ドラえもんの科学みらい展でも GEN H-4 ヘリコプターが取り上げられています。タケコプターの具現であるということで展示されています。ドラえもんの科学みらい展会場内には本物の GEN H-4 が展示されていて、コクピットに座って写真を撮ることができます。
GEN H-4 に座って記念撮影する奥村
行列ができてなかなか座れない時間帯もあるようですが、私が行った時にはもう終了時間間近であったためか、他に誰もおらず、コクピットに座った写真以外にも色々撮れました。
GEN H-4 ローター部
GEN H-4 エンジン部
GEN H-4 エンジン部をコクピット側 (下側) から見たところ
GEN H-4 操作部
他にもドラえもんの秘密道具の機能が科学的に実現されているような機器類を展示しています。
これはガリバートンネルです。
ガリバートンネル
ガリバートンネルは、実際には何も小さくなりません。通った先に巨大な鉛筆や消しゴムのオブジェが置かれていて、ミクロの目で見るとこんな世界がある、というような展示がされています。その展示の一つとして、空気圧アクチュエーターを使って動くマイクロハンドがありました。医療分野などでの利用が計画されているようです。
マイクロハンド (μTAN)
こちらは、GEN H-4 と同じぐらい人が並ぶらしい透明マントの展示です。私が入って最初に並んだ行列です。この行列で 30 分ぐらい時間を使ってしまったため、GEN H-4 の展示を見に行った時には時間が遅くなって行列がなくなっていたのです。
透明マント
写真は説明が必要だと思います。私が体の前に透明マントを広げています。透明マントに隠れた私の体部分は、その向こう側の窓の景色が透けているように見えるのがわかるでしょうか? カメラで背の後ろの部分の景色を撮っていて、透明マントに手前のプロジェクターから投影することで実現しています。
この展示の係りの人は異常に親切で、私は一人で行っていたのに写真やムービーを撮ってくれました。他のグループに対しても写真を撮ってあげたりしていました。この人が親切すぎるので、それぞれのグループが展示を見るのに時間がかかってしまっていて、それが行列が長くなっている原因の一つでもあるようでした。
ミュージアムショップではドラえもんグッズを色々売っていました。一番面白かったのがこれ、ドラえもん型 PET ボトルに入ったミネラルウォーターです。
ドラえもん型 PET ボトル・ミネラルウォーター
日本科学未来館の入口近くには、日本科学未来館がオープンしたばかりの頃に話題になった地球儀が展示されています。
日本科学未来館の地球儀
この地球儀は表面にびっしりとディスプレイがついていて、地球の色々な姿を、時に写真で、時にアニメやグラフで表示しています。地球儀のある場所のフロアには寝椅子が 5、6 個置いてあり、寝転んで地球儀を見上げながら休憩することができます。
海洋の気温を表示しているらしい日本科学未来館の地球儀
ドラえもんの科学みらい展自体は、展示内容とドラえもんとの結びつきがちょっと無理があるものが多いのと、科学的な内容の展示は、子供向けのイベントとしてはちょっと難しすぎるように思える部分もありました。私は楽しめましたが、子供連れだと子供が飽きてしまうと思います。あと、料金と内容のバランスという意味では、やはり内容の割りに料金は高すぎるように思いました。
日本科学未来館の隣には、フジテレビ湾岸スタジオという建物があります。その前には数体のラフ君人形が展示されていました。
フジテレビのキャラクター・ラフ君
日本科学未来館のロッテリアの裏あたりには、日本科学未来館の館長であり、元宇宙飛行士の毛利 衛さんの飛行を記念したと思われる碑がありました。
地球まほろばと書かれた、毛利 衛さんのスペースシャトル搭乗を記念した碑
日本科学未来館の裏にあるサイエンススクエア臨海の玄関にはエクスクラメーション・マークとクエスチョン・マークを題材にしたと思われるキャラクターが置いてありました。
サイエンススクエア臨海のキャラクター – エクスクラメーション・マーク (“!”)
サイエンススクエア臨海のキャラクター – クエスチョン・マーク (“?”)
柳澤源内さんと直接お話ができ、満足できるイベントでした。
ああ!あのGEN!
数年前イギリスのヘリ雑誌編集者と会った時
この話になって会社に行ってきたと言ってました。
その時の記事の雑誌もらいました。
このような方なのですねー。
早くポケットに入る形の物がほしいです。
> すぎさまさま
なかなか商売にならないようです。こういうところにこそ税金を使って欲しいですよね…
なにやら画像引用されまくっていました。タイ語かな? 何と書いてあるか全然わかりませんが…
http://www.nintendovn.com/forum/showthread.php?t=13490