2007 年の一般公開に行って以来、3 年振りとなる JAXA 相模原キャンパスの一般公開に行ってきました。
スクーターで小田急相模原方面から、淵野辺公園の横を通って北上するルートで向かったのですが、市立博物館入口交差点を左折する手前にある JAXA の西門が開いていて、そこにも駐輪場があったため、そこから入らせてもらうことができました。
JAXA 相模原キャンパス西門
今年もエコバッグを配っていました。
JAXA エコバッグ
今年の目玉は何と言っても、はやぶさ Hayabusa 帰還カプセルの展示です。しかし、平日だった昨日 2010/07/30(金) の公開初日でも 2 時間待ちだったということで、行く前から「今日は見れないだろう」と思っていました。でも一応状況を見てみるかと、カプセルが展示されている市立博物館方向へ言ってみると、まだ市立博物館が見えてない場所に、入場待ちの最後尾がありました。係りの人に聞くと、昨日はこのあたりからだと 2 時間程度かかった、ということでした。
JAXA の一般公開には、はやぶさ関連以外にも見たい展示が一杯あるのに、ここで 2 時間費やすと、他が全く見れなくなります。ということで、はやぶさ帰還カプセル展示は、きっとまた見る機会があるだろうということで今回は諦めることにしました。
はやぶさ帰還カプセル展示入場待ち行列最後尾
JAXA 相模原キャンパスへ入っていくと、第 1 会場の建物前に、顔ハメがありました。もちろんハマって、近くにいた人に写真を撮ってもらいました。
JAXA 顔ハメを楽しむ奥村
メインの建物の入口は、はやぶさ関連の展示を見るための列と、それ以外の展示を見るための列に分かれていました。私ははやぶさ以外の列に並んだのですが、はやぶさの展示を見る列は、かつて JAXA の一般公開では見たことがないような建物の外まで続く列ができていました。
建物の外にも長く続く、はやぶさ関連展示を見るための列
はやぶさ以外の展示を見るために 2F に続く階段から、大混雑のはやぶさ関連展示のコーナーを見れます。
大混雑のはやぶさ関連展示コーナー
この、はやぶさ実物大模型や、はやぶさのミッションの説明をしたパネルなどを含む展示は、遠目には、ほとんどが既に見たことがあるものばかりのように見えましたが、はやぶさ実物大模型の下に見慣れない展示物がありました。良く見ると、はやぶさ帰還 Hayabusa re-entry 当日 2010/06/13(日) に管制室で実際に運用で使われていたホワイトボードのようでした。
はやぶさ帰還 Hayabusa re-entry 当日 2010/06/13(日) のホワイトボード
はやぶさ帰還イベントの時、JAXA の方が、「今年の相模原キャンパス公開では、はやぶさ関連のスペアパーツなど、いざという時のために保管してあったものを展示する予定です。」と話していたので、遠目にはこれまでと同じような展示でも、実は近くで見ると、これまでと同じ説明板の下に、本物の部品が置かれていたりというような事があったのかも知れません。しかし、結局この大混雑エリアには私は最後まで立ち入らなかったため、本当のところどうだったかはわかりませんでした。
これらの展示を横目で見ながら、2F の天文グループの展示を見に行きました。
これは、はやぶさ帰還カプセルに勝るとも劣らないお宝、IRTS の宇宙から回収された赤外線望遠鏡の一部です。
IRTS 赤外線望遠鏡の一部
再利用可能な人工衛星の実証試験として、若田飛行士がスペースシャトルのロボットアームで捕まえて回収してきた衛星に積まれていた望遠鏡です。有名なハッブル宇宙望遠鏡をはじめとして、世界ではこれまでいくつかの宇宙望遠鏡が打ち上げられてきましたが、地上に戻ってきたものは、この望遠鏡が唯一です。
上記の望遠鏡の後継として、日本は赤外線宇宙望遠鏡を打ち上げています。現在運用中のものが「あかり」です。JAXA の説明員の方々が「あかりちゃん」と呼ぶのがおかしかったです。そして、あかりちゃん関係の説明員の方々のうちの何人かは、ごらんのあかりちゃん法被を着ていました。これ欲しいなぁ…
あかりちゃん法被背中 (灯 あかり)
あかりちゃん法被襟 (赤外線天文衛星 あかり 赤外・サブミリ派 天文学 研究系)
こちらは別の会場で展示されていた「あかり」のクライオスタット (冷却容器) の開発試験モデルです。実際に宇宙を飛んでいる「あかり」とほぼ同じ素材で作られた、ほとんど本物といってよいものです。
あかりクライオスタット (冷却容器) 開発試験モデル
宇宙区間では日影を作って真空に露出すれば、わざわざ冷却しなくても絶対零度近い温度が得られるのではないかと思って質問してみました。すると宇宙空間といえども、衛星自体から伝わってくる熱や、天文衛星は地球に近い軌道を飛んでいることから、太陽の影だけを作っても、地球が巨大な赤外線源となってノイズとなることなどから、絶対零度近い魔法瓶のようなものを作って観測機器を納める必要があり、このような容器が必要なのだそうです。
冷却は液体ヘリウムの気化熱で行っていたものがメインで、それとは別に冷却器も備えられているそうです。外側が銀色のなのは外からの熱の進入を最小にするとともに、冷却器の放熱器としても機能させているそうです。液体ヘリウムを使った場合は、絶対温度 3 度ぐらいまで下げられるそうです。
現在の「あかり」は、既に液体ヘリウムはすべて蒸発してしまっていて、今後の運用方法は研究中ということでした。
続いてのコーナーでは電波天文衛星 Astro-G (VSOP-2 システムの衛星) の展示が行われていました。VSOP に比べて 10 倍ほどの解像度となるらしく、地球上から、月面に立つ人の顔が区別できる程度の解像度で、「視力」に換算すると 130 万なのだそうです。
VSOP-2 の視力は 130 万
解像度が上がったのは、衛星の高度が高くなったことが理由だと思っていたのですが、質問してみると、観測に利用する周波数が上がったことによる効果の方が高いそうです。
こちらは Astro-G のアンテナの構造が展開できるかどうかの実証に使われていたモデルです。大きさは小さいのですが、素材的にはほぼ本物らしいです。触らないでと書いてあるのですが、説明員の人が気軽に「触っていいですよ」と言っていたので、アンテナとなる網の部分を触らせてもらいました。これが傘のように広がって、それがさらに 7 つ組み合わされてアンテナの全体となります。
Astro-G のアンテナ構造模型
アンテナの網目には凹凸があるように見えるのですが、張力を与えて展開することで、パラボラ局面にきちんとなるらしいです。張力与えても平面にしかならないような気がするのですが、何か工夫があるのでしょう。(その部分は聞けませんでした…)
アンテナは電気的に全体が 1 つになっている必要があってボンディングワイヤーのようなもので接続されているのかと思いましたが、ある程度の面積が電気的に 1 つになっていれば、個々の部分は分離していても、全体として反射鏡として有効に機能するそうです。
金属膜ではなく、網であることで指向性が出ませんか? と聞いてみたら、やはり出るそうです。でも問題にならないレベルということでした。
観測方向に対して後ろに吊り下げるようにパラボラの傘を開いているので、衛星の影が落ちませんか? と聞いて見ると、実はこのパラボラ面は、底の面ではなく、オフセットされた部分なのだそうです。なので衛星の図をパッと見ると、パラボラ局面の底の真上に衛星がいるように見えますが、実際にはちゃんと入射角からは外れています。一方で衛星から見て観測方向にパラボラを展開してもいいのではないかと思って聞いて見ると、アンテナの給電点を衛星本体の近くに持っていた方が色々有利なので、この構造がいいのだそうです。
当たり前ですが、色々考えて作られているんですね。
観測データは、衛星にメモリを積んでバッファしていると思っていたのですが、これも聞いて見るとリンク局という地上局にリアルタイムでダウンロードしていて、衛星には溜めていないのだそうです。観測中は 1G bps ぐらいのリンクで流しっぱなしにするようなデータが発生するらしいので、観測時間をカバーできるメモリを積むのは大変だし、宇宙で利用できるメモリは、熱、宇宙線など多くの条件をクリアする必要があって、コストなども考えると現時点では難しいということでした。
解像度をさらに高めるために半径を稼ぐためには、人工衛星ではなく、人工惑星軌道にした方がよいのではないかという事も聞いて見ましたが、観測中はリンク局との通信を維持しなければならないので、あまり距離が離れると必要な電力が大きくなって、太陽電池でまかなえる範囲に収まらないという問題や、電波の到達時間が長くなって制御が難しくなるという問題などがあるそうです。予算さえあれば解決できる問題のようですが、何でもできる状況にはないので、人工惑星案は当面ないそうです。
地球 – 衛星の現在位置という線に対して直角方向しか観測できないのかも聞いて見ました。それ以外の方向でも観測できるそうです。ただし、直角から外れるほど解像度は悪くなります。
衛星の軌道は赤道から 30 度だか 40 度だかずれているので、地上局との関係にはずれが生じて、観測できる、あるいは、観測しやすい方向はそれによって変わって行きます。VSOP-2 に参加する地上の電波望遠鏡の数や場所、それぞれが VSOP-2 として運用に参加できる時間の制約など、色々な条件があるため、いつでも、どの方向でも観測できる、というようにはなかなかならないのですが、ほぼ全天が観測できるそうです。衛星が同時に 2 機上がっていると自由度が高くなると言っていました。これも予算の問題で無理なのだそうです。
VSOP-2 の解像度は 38 マイクロ秒角ときわめて小さな角度です。衛星の方向制御がとてもシビアである必要があるように感じるのですが、そんな極小角度の制御が可能なのかも聞いて見ました。すると、アンテナ間の信号の処理などによって解像度が出てくるので、衛星の方向や、地上のアンテナの方向などは、観測で得られる解像度よりずっと低い精度で制御できれば十分なのだそうです。なるほど…
1F に下りて、イカロス IKAROS 関連展示のコーナーへ進みます。順路表示がかわいいです。
イカロス展示順路表示 (こっちー)
こちらも同じ順路表示ですが、ちょっと顔が違います。
イカロス展示順路表示 (いくぞー)
グッズも色々出てました。かわいいです。
イカロス携帯ストラップ 3 種
イカロス缶バッジ 10 種
イカロス応援色紙がたくさん展示されていました。一般の人からのものの縮小された写真も展示されていましたが、以下の 3 枚だけは実物が展示されていました。3 枚目は作曲家の三枝成彰さんの色紙なのですが、1 枚目と 2 枚目は誰のものかわかりません。
イカロス応援色紙 1
イカロス応援色紙 2
イカロス応援色紙 3 – 作曲家の三枝成彰さんの色紙
イカロス関連展示コーナーの天井には、イカロス分離カメラ DCAM から撮影した、イカロス自身の写真が何枚も展示されていました。
DCAM から撮影したイカロスの写真群
こちらは別会場で展示されていた、展開した状態のイカロスの帆です。これで 1/4 で、実際はこれが 4 枚ついていることになります。実際に展開した状態で見ると、かなり大きく感じます。
展開したイカロスの帆 (1/4)
帆の隅には小さなおもりが付けられていて、イカロス自身が 1 分間に 1 回転強程度回転していることにより、遠心力で展開され、帆の広がった状態も遠心力だけで維持されています。つまり特に骨があるわけではありません。それで帆として役に立つというのがちょっと不思議な感じがします。上にある連続写真の帆の状態を見ると、完全に平面というほどには真っ平らに広がっていなくて、表面はある程度くしゃくしゃになっているように見えますが、それでも帆としての力は計算通りに出ているらしいです。それも不思議でした。
イカロスの帆の太陽光を受ける面は、基本的に帆としての効率を上げるために銀蒸着がされています。しかし隅の方に黄色くなった部分があります。これは銀蒸着した帆の表面に液晶が貼られた部分で、帆の出力を制御するために使います。液晶を電気で制御して、透明にしたり、光を通さないようにしたりします。透明にすれば銀色そのままの場合より効率は落ちますが、帆としてある程度機能します。不透明な状態にすると、その面積分は帆としての機能が大幅に低下します。黄色い部分は 16 ヶ所にグループ分けされていて、それぞれ個別に透明にしたり、不透明にしたりという制御ができます。これにより丸 1 日かけて 1 度ぐらい方向が変えられる程度の出力のアンバランスを作ることができるのだそうです。
展開して展示されていた帆の制御部は、透明状態と不透明状態の状態を見せるため、両方の状態を短い時間で繰り返していました。
制御部 (透明状態)
制御部 (不透明状態)
帆の中程には太陽電池が貼られています。この太陽電池が機能するかどうか自体の実証がイカロスの目的だったので、イカロスのミッションでは発電確認をしただけで、イカロスの運用の電力は、イカロスの帆ではなく、衛星本体に貼られた太陽電池でまかなわれているらしいです。実証試験では、衛星本体に貼られた太陽電池より大きな出力が帆に貼られた太陽電池から得られることが確認されています。
帆はポリイミドフィルムという黄色い透明な一種のプラスチックに銀蒸着して作られています。太陽の側を向くのは銀色の面で、反対面はポリイミドフィルムの黄色い色をしています。展開して展示されている帆を見ると、この黄色い面にも太陽電池が貼られていました。
帆の黄色い面にも貼られた太陽電池
黄色い面にも太陽電池が貼られているということは、こちらの面を太陽に向けて飛ぶこともあるのかと思って質問してみました。すると、これは太陽電池の反り対策で、同じ素材である太陽電池を裏向きにも貼ることで、素材の反りが相殺しあって反りが発生しなくなるのだそうです。しかし、この太陽電池が実際に太陽電池として発電することはなく、重量的には無駄になってしまうそうです。
こちらはイカロス IKAROS の動釣合試験時の写真です。向かって右側の写真は回転中の様子を撮影したものらしく、ブレていて回転している事がわかります。衛星は打ち上げる前に、このように回転、振動、熱など、さまざまな要素での試験を行います。
イカロス IKAROS 動釣合試験写真
こちらはイカロスの高利得アンテナです。
小さく「入」という字のようなパターンが並んでいますが、このパターン 1 つ 1 つがアンテナで、アレイアンテナとして機能するようです。アンテナ本体は本当は銅色なのですが、白くなっているのは熱対策です。
イカロス高利得アンテナ
イカロスは金星に向かっているのに、なぜ太陽光を使った帆で進めるのかという疑問も聞いてみました。帆は角度を変えることで加速にも減速にも使え、イカロスは真っ直ぐ金星に向かっているわけではなく、周回軌道を少しずつ減速することで地球の軌道より内側に落ちていくように飛んでいるので、その減速に帆が使えるということでした。帆で再加速して地球と同じ軌道へ上がってくることもできるのだと思います。
イカロスの今後ですが、予定していた実証試験はほぼ終わってしまったので、後はあまりやることがないそうです。金星へ向かっているということだったので、金星探査を行うのかと思っていましたが、宇宙ヨットの試験として地球軌道より内側を目指して飛んでいるというだけで、金星へ近づくミッションではないのだそうです。他の人工衛星、人工惑星同様、いずれ寿命を迎えますが、太陽や地球へ落として燃やしてしまうというプランはないそうです。そのままデブリとなります。人工衛星軌道ではそういうことは許されないそうですが、人工惑星なので放置しておいていいのだそうです。どうせなら制御がきかなくなる直前に地球より早い速度に加速して、外宇宙へ飛んでいってしまうようにすればいいのに、と聞いてみましたが、説明員には笑って「そうですねぇ~」という感じで流されてしまいました。
第 1 会場のイカロス関連の展示から、裏手にまわって出口に向かう通路に、日本初の人工衛星「おおすみ」の模型がひっそりと展示されていました。そこに掲示されていた「おおすみ」が 1970/02/11 に打上成功した時に喜ぶ人々の行列の写真が、時代を感じさせつつ、最近はやぶさの帰還成功を無邪気に喜んでいた私を含む一般の人々と同じように、当時の一般の人々も、生活に直結しない科学的成果を喜んでいたんだなぁとうれしくなりました。日本にはこういう人々の存在するということが、意外に科学の進歩に重要な役割を果たしていると思います。
おおすみ打上成功を喜ぶ人々
同じく第 1 会場のトイレ近くにある自動販売機です。はやぶさ帰還イベントの時もそうでしたが、自動販売機は売り切れ続出です。オペレーターに依頼して 1 日数回補充をしてもらうぐらいでいいように思うのですが、特に策無しという感じで放置されていました。まぁ、今日ははやぶさ帰還イベントの時とは違い、あちこちに臨時売店テントが設置されて飲み物を売っていたので、なにもこの自動販売機で売らなければいけないというわけでもないのですが。
売り切れ続出の自動販売機
会場間を移動する時に、屋外に展示されている M-V-2 ロケットの前を通りました。
M-V-2 ロケット (ほぼ実物)
このロケットにも説明員がついていました。例年の JAXA 一般公開では、これらの屋外ロケットには説明員が付いていなかったと思います。はやぶさ効果で例年より多くの入場者が予想できたため、例年より説明員を大量増員したのではないかと思います。
固体燃料ロケットでこれまで不思議に思っていたことをいくつか聞いて見ました。一つは姿勢制御です。固体燃料ロケットでは、液体燃料ロケットのようにエンジン出力の大きさを制御することはできないと思っていたのですが、これは事実で、一度火をつけたら、出力の調整もできないし、途中で停止することもできず、燃え尽きるのを待つだけなのだそうです。
ただし、方向の制御は、噴射ノズル自体の向きが変えられるようになっていて、それで制御しているのだそうです。そしてピッチやロールの制御は、本体の周囲に付けられた小さなロケットで行っています。
ピッチ、ロール制御用ロケット (1 段目用)
ピッチ、ロール制御用ロケット (3 段目用)
これらの姿勢制御用ロケットも固体燃料ロケットです。なので出力の調整はできません。最初の M-V-2 全体の写真を見るとわかるように、この姿勢制御ロケットの後ろには噴射ノズルがありません。ではどこから噴射しているのかというと、1 段目の姿勢制御用ロケットがわかりやすいのですが、側面にいくつかの穴が開いています。写真では片方の面で、前の方に 4 ヶ所、後ろの方に 4 ヶ所あるのが見えます。これが逆の面にもあります。ロケットの出力は、弁のような機構によってこれらのノズルに分配されます。ロケットに点火すると、これらのノズルから両方の面に対して同じだけの出力となってバランスがとられるように弁が調整されます。制御が必要になると、弁による分配を調整してバランスを崩すことで、ロケットを回転させたりする方向の制御を行います。この方法だとロケットは固体燃料でずっと同じ出力で噴出し続けていても、姿勢制御が行えるというわけです。
また、固体燃料ロケットって、燃焼が進むと噴射が不安定になるのではないかという疑問がずっとありました。今回 M-V-2 の場所にいた説明員の方に色々聞いて、疑問が解消しました。下の図を見てください。私はこの図で「間違った燃焼状況」と書いたような感じで固体燃料ロケットは燃えているのだと思っていました。これだと燃焼が続いて燃料が少なくなると、燃料が燃えている部分から噴射ノズルまでの距離が伸びてしまい、燃焼前半と後半でその距離が変わることから、出力が一定しなさそうに思えます。また、噴射ノズルに向かってまっすぐ進んでいくべきロケット噴射が、燃焼後半では燃料室内の形状により影響を受けたりして、これも出力が不安定となる要素になりそうです。
ところが実際の固体燃料ロケットは、エンジン内にぎっしり燃料が詰まっているのではなく、中心部に空洞があるのだそうです。点火はこの空洞の内壁全体に対して行われ、燃焼中は燃料の内壁部分全体が燃え、円周の外側に向かって燃え広がっていくのだそうです。以下の図で「本当の燃焼状況」として書いた図が、その説明です。
固体燃料ロケットで誤解していたこと・解説図
なるほどなぁと思いました。
はやぶさの打上に使われたこの M-V ロケットは、継続しないことが決定となっていますが、JAXA は後継機としてイプシロンロケットの開発を進めています。このロケットは M-V ロケットのスケールダウンとなって、もはや、はやぶさクラスの衛星を打ち上げる能力は持ちません。しかし、せっかくつちかってきた世界最高レベルの固体燃料ロケットの技術を継承するための苦渋の選択であったのではないかと思います。
イプシロンロケット模型
こちらは電波無響室 RF (Radio Frequency) Anechoic Chamber です。
電波無響室 RF (Radio Frequency) Anechoic Chamber
何か神殿のような雰囲気があります。
人工衛星に取り付けたアンテナの指向特製などが正しく設計どおりであるかどうかを確認するための部屋です。周囲のでこぼこしたものは電波を受けると吸収して熱としてしまうカーボン含有角錐型ポリウレタンフォームという素材です。電波無響室の前に、実物が触れるように置いてありました。もっとゴツゴツした硬いものだと思っていたのですが、実際に触ってみるとやわらかいスポンジのようなものでした。
電波吸収体 (カーボン含有角錐型ポリウレタンフォーム)
電波無響室内では、はやぶさ帰還カプセルの落下地点を特定するために使ったビーコン電波を検出する電波方向探査の実験を公開していました。また、この電波方向探査局 DFS (Direction Finding Station) アンテナは、屋外にも展示されていました。こういったアンテナ 4 機がオーストラリアで活躍して、帰還したはやぶさカプセルの落下地点を特定するのに役立ったそうです。
電波方向探査局 DFS (Direction Finding Station) アンテナ
はやぶさで故障したことで有名となった、リアクションホイールのジャイロ効果を体験できる展示もありました。ターンテーブルの上に立ち、体の前に大きなホイールの付いた装置を抱えて立ちます。ホイールをまわさずにひねってもなにも起こりませんが、ホイールを回転させた状態でホイールの軸を 90 度ひねる方向に回すと、自分の体がターンテーブルの上で向きを変えて行きます。言葉で書くとわかりにくいと思いますが、実際に体験すると、とても不思議でおもしろい実験です。
ジャイロ効果体験展示
何のコーナーだったか忘れてしまいましたが、プラズマボールの展示もありました。このプラズマボールは子供に人気が高くで、この手のイベントでよく客寄せに置いてあるのを見ます。しかし実は自分で触ってみるのは 2 回目だったりします。だいたいどこのイベントでも行列になっているからです。
プラズマボールに触ってみた
蛍光灯が置いてあって、「近寄せるだけで光る」と書いてあったのでやってみました。この写真だと肝心の蛍光灯の両端が写ってないので、蛍光灯が電源に接続されていないことがわからないのですが、実際どこにもつながっていなくて、手で持っているだけです。プラズマボールに近寄せた部分を中心に、本来の蛍光灯の光より少し弱い感じで、ボワーっと光ります。
プラズマボールで蛍光灯を光らせる
売店は何箇所かにありました。会場内には本屋さんがあって、はやぶさ関連の書籍がやはり良く売れていたようです。こちらの、屋外テントで売っていた、はやぶさレジン (樹脂) キットも 6,000 円と高価であるにもかかわらずけっこう買っている人をみかけました。
はやぶさレジンキット 6,000 円
イベントは 16:30 に終了です。放送で「終わったので帰ってね」と何度も繰り返していましたが、17:00 過ぎになっても JAXA 相模原キャンパス内には人がいっぱい残っていました。はやぶさ人気でこのようなイベントに興味をもって初めて来た人が多かったのだと思います。
17:00 ちょうどぐらいに JAXA を正門から一度出て、はやぶさ帰還カプセルを展示している市立博物館がどのような状況になっているのかを見に行きました。すると、なんと 17:00 の時点でも大行列ができていました。
17:00 を過ぎても解消されていなかったはやぶさ帰還カプセル展示の待ち行列
今年の JAXA 相模原一般公開は、はやぶさ効果でいつもよりかなり人出が多かったように思います。そして今回も全然全部は見てまわれませんでした。金土の 2 日間ではなく、金土日の 3 日間開催にして欲しいです。まぁ、元々は 1 日だけのイベントだったのが 2009 年からようやく 2 日間開催になったばかりだし、職員の方も休みたいでしょうし、変わりに月曜日休みとかにして、研究に支障が出るようでは本末転倒ですし、そう考えると仕方ないのかも知れませんが…
来年はきっとはやぶさブームなんて何のこと? というぐらい、いつもぐらいの人出に減って、はやぶさ帰還カプセルも写真撮り放題で普通に展示されるものと思います。
あ、あと、今年は一人で行ったので、悲しくありませんでした。
2011/08/27(土) 追記
あ、リンクされてる!
2010 JAXA Open House WIKI
子供の自由研究で検索してこちらにお邪魔しました。
私も一般公開、行きましたよ♪もっとゆっくり解説を読んだり説明を聞いたりしたかったのですが、子供があの人ごみに耐えられず・・・ほとんど素通りでした(涙)もちろん、はやぶさカプセルも一番のピーク時だったので、スルーでした。残念!!
でも、こちらで丁寧に書いてくださっていたので、再度一般公開に来たような気分になりました^^
そうそう私も週末3日間の公開にすればいいのになぁって思った次第です。(JAXAで働いている知人いわく、お祭りなのでがんばれるけれど、かな~り大変らしいので、2日が限界なんでしょうね。)
カプセルは来年に賭けます!
> 相模原市民さん
記事の内容を楽しんでいただけたようでよかったです。今年ははやぶさフィーバーで例年の 2 倍ぐらいは人が来てたようなので、どの展示も混雑してましたね。
来年はブームが落ち着いて、はやぶさカプセルをじっくり見れるようになると思います。
JAXA一般公開とても行きたかったのですが、子供が小さい(幼稚園年少)こともあり、はやぶさ効果で超混雑が予想された今年は諦めた者です。
こちらで詳しく様子が書かれていたので、大変興味深く読ませていただきました。
来年こそはチャレンジしたいと思います。
そうそう、JAXAに三枝成彰さんの色紙とはビックリしました。氏のファンなもので……
> 相模原市民2号さん
コメントありがとうございます。そうですね。今年は救急車こそ出動しなかったものの、列に並んでいる途中で気分を悪くして救護室に担ぎ込まれる人は何人かいたようなので、お子様連れだと諦めたのは正しい判断だったかも知れません。
来年ぜひ。
ちなみに、今回「第 1 会場」と呼ばれていた、はやぶさの実物大模型の置かれているスペースは、公開イベントがない日でも公開されている広報用の施設なので、イベントがない日に行っても、それなりに楽しむことができます。人も少ないです。